私はパントマイムの役者なのですが、今回は湯福神社の境内で行われた、友人〈楽市楽座)の舞台にゲストとして出演させて頂くことが目的で長野を訪れました。 真夏の暑い盛り、焼け付くような日差しの中、湯福神社には、街中とはこうも違うかと思うほどのヒンヤリとした風が吹き抜け、年輪を重ねた欅の大木が不思議な空気を生み出す、小さな異境というような空間でした。
投げ銭で全国を回る「楽市楽座」とは数年前に知り合い、初めて彼らの舞台を見せて頂いた時から私達は一家でファンになりました。翌年の二度目の東京公演にも伺ったのですが、昨年の原発事故後、一座は娘さんの身を想い、放射能に汚染された地を避けて公演を行っていたために、残念ながら東京では観ることが出来なくなりました。ならばと、近い長野で観ようと駆けつけたのですが、それならゲストで出てという話になり、水に浮かぶ回り舞台でマイムを演じる事になった次第です。
大劇団ならいざ識らず家族三人での旅回り、テント生活をしながらの旅ですから当然経済的にもギリギリでしょう。私達もまあ似たり寄ったりなので、さて一夜の宿をどうしようかと思っていたら、この体験宿泊のお話を頂きました。渡りに船とはこの事、お陰様で快適に旅の一夜を送ることが出来ました。
実は私の父は上田の出身、長野には少なからぬ縁があります。ですが東京育ちの私は、父の死後は親戚とも疎遠になっていました。何十年か前には長野で公演もしたこともあるのですが、街中も新しい道路が出来ていたり、郊外まで市街地が拡がっていたりで、久しぶりの長野から、懐かしさと寂しさが入り交じった思いで家路につきました。 次回はもう少し余裕を持って、街の散策などゆっくり訪ねてみたいと思っています。
ただ、少し気になったのは街中に緑が少ないこと。昔からこんなに少なかったかなあと思うほどに、街路にも家々にも樹木がないように感じたのです。街中のあの焼け付くような暑さは、これも影響しているのではないかと思いました。大木が生い茂った湯福神社の涼しさが、とてもありがたく思われました。街作り一環として緑をもっと多く取り入れたら、街の雰囲気にも潤いが生まれるのではないでしょうか。これは父の故郷長野への私の勝手な想いです。
(清水きよし・記、写真提供)
※清水さんの奥様が描かれた宿帳
【清水きよし プロフィール】
ヨーロッパのマイムの流れをベースに、日本の伝統的な演技様式を吸収して独自のスタイルを作り上げた。軽やかで透明感のある演技で空間に自在に景色を描き出す。詩情溢れる数多くの作品から「空間の詩人」と呼ばれ、そのユーモアとペーソスに満ちた舞台は海外でも高い評価を得ている。日本人のマイミストとしての独自性・可能性を追求し、代表作「幻の蝶」の能舞台での上演を始めとして、創作面師・ふじもりふじお氏との共同作業による「KAMEN」「KANAWA」など、新しい仮面劇の創造への試みなども意欲的に行っている。2007年には熊野本宮大社の新しい神楽「祈り」「熊野」の振り付けを担当する。2009年10月、「幻の蝶」30周年記念公演をおこなう。2010年8月仁川、11月香港で「KAMEN」を上演し好評を博す。
現在:東京アナウンス学院、青二塾、朝日カルチャーセンター(新宿)講師(HPより)
※清水さんのHPはこちらです。