わが家から徒歩数分のところに、清水隆史さんとゆかりちゃん夫妻のお住まいがあります。クルマの通れぬ小路沿い、道に向かって明らかに傾いたその家は、佇まいもただならぬ雰囲気。数年前、まだ独り者だった清水さんから「引っ越しました」と聞いた時、「清水さんがとうとう家を持った」と感慨ひとしきり(借家だけど)。(だってそれ以前は確かネオンホールに住んでましたよね?)「結婚でもするの?」との質問に、「しません! 僕はこの街と結婚したようなものですから」と答えていた清水さんが、まさかその家にゆかりちゃんという妻を迎え入れ、まさかこの私が結婚して同じ町内で門前暮しをスタートさせるとは、その頃には思いもよりませんでした。ずーっと遊びに行ってみたかったその清水家に、先日ようやくお邪魔してきました。(というのが先月あたまのこと。訪問してからずいぶん経ってしまいました…)とはいえ清水さんはバンドマンとして忙しい日々。(この夏、清水さんはOGRE YOU ASSHOLEというバンドのベーシストとしてメジャーデビューし、日本全国をツアーで駆け巡っていました。そのへんのことはch.books発行のフリーペーパー「チャンネル vol.3」に詳しく載っています)清水さんを待ってたらいつになるかわかんないよ、と勝手にゆかりちゃんに約束を取り付けたのです。そのお住まい以上に、私はゆかりちゃんという人に興味津々。以前からお話してみたくてたまりませんでした。私にとってゆかりちゃんは、劇団カフェシアターの女優さんとして舞台に立つ妖艶な姿が印象的すぎて、なんだか近寄り難い人。でも普段は本気で小学生と間違われるような、あどけない人でもあります。(中学生に「あなた、いくつ?」と聞かれたとか、真偽不明の逸話多数。うちの夫は西の門市で、お手伝いをしている小学生がいるなあと感心していた)その外見からか、それとも保育士という仕事柄か、多笑も直太朗もあっという間にゆかりちゃんになついていました。さて清水さんち。古い大きな一軒家を改装して、3世帯が入れるようにした不思議な造り。通りに面した1階と、2階のひと部屋が清水家です。2階のもうひと部屋は、なんと隣の世帯のもの(幸いなことに空家ですが)。外観からはどこが世帯の境目なのか、よくわかりません。戦前の建物は、建具とか柱とか、やっぱり味わい深い。置かれた家具も、同じくらい古そう。大きなスピーカーから微かに音楽が流れ、ゼンマイ式の時計がコチコチと時を刻む。戸棚に置かれた古い腕時計やカメラ、棚の上に積まれたプラモデル、あちこちにかけられた帽子やバイクのメットが、不在の主の存在を静かに伝えます。
そうした中に、ゆかりちゃんの本や雑貨、彼女が漬けた果実酒の瓶が、静かに共存しています。
こつこつと好きなものを築いてきて、今の清水さんがあるのだなあと、しみじみ思う。大人になるのは、いろいろあきらめることでもあると思っていたけど、清水さんはきっと何もあきらめてないんだ。やっぱり、好きを貫くことは、すごいことだ。まるで骨董店のような密度の濃い空間から戻ると、わが家がなんだか味気ない。この家自体は清水さんちと同じくらいの古さなのに。合板の家具は、物語をはらみようがない。わが家もこれから少しずつ、年月を重ねるごとに味わいを増し、この家に溶け込んでいくような家財を揃えていこうと、夫と話したのでした。(妻記、夫写)