長野・門前暮らしのすすめ

活動の記録

演出家・西村和宏インタビュー

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創る。観る。ゆたかに暮らす。 〜まちのために演劇ができること
演出家・西村和宏さん(劇団青年団演出部所属)インタビュー

 演劇には人と人を繋ぎ、人と土地をつなぐ力があるはずだ。
この街で創れば、門前暮らしをより楽しいものにしてくれるはず。
…そんな考えから「長野・門前暮らしのすすめ」による演劇プロジェクトは
スタートしました。2010年2月に「柔らかいモザイクの街」、2010年9〜11月には
「国定忠治」、2011年2月には「母アンナの子連れ従軍記」を制作しています。

このインタビューは、それら全ての作品の演出を手がけている西村和宏さんに
長野で、地方都市で、今後演劇が担っていくべき役割について伺ったものです。


西村和宏:演出家。1973年生まれ、兵庫県出身。香川大学教育学部卒。
1999年、劇団第三エロチカに俳優として入団。2005年より、平田オリザ氏が主宰する
青年団の演出部所属。青年団若手自主企画として作品を発表するかたわら、
劇団外部での演出も積極的におこなっている。


・人と人をつなぐ演劇の力。


–西村さんは普段、東京で活動しているわけですが、今回(2010年2月)は
長野市に滞在して「柔らかいモザイクの街」を制作して頂きました。手応えはどうでしたか?

「正直言って、一週間でここまで出来るとは思いませんでした。
この『蔵春閣』が、こんなにしっかり劇場っぽく変わるとは思ってなかったし。
色々な人の協力があって出来たんだと思います。自分でも驚きました。」

–旧『蔵春閣』…城山公民館別館ホールの空間について、どう思いますか?
 
「いい場所だと思います。天井が高くて、床がフラットだから演劇に使いやすい。
あとは照明用のバトンと暗幕さえあれば、とりあえず劇場として使えると思いますね。
いい劇場と悪い劇場って、機材が整っているかどうかよりも、第一印象というか
…カンでわかるんですよ。蔵春閣はそういう意味でも魅力的な空間だと思います。

–今回は、東京から西村さんが連れてきた役者の他に、長野でもオーディションによって
市民キャストを募りました。様々な職業・年齢層の人が出演したわけですが
…地元の巻き込むスタイルはいかがでしたか?
 
「とても楽しかった。演劇が持っている公共性について考えさせられました。
短い時間の中で、演劇によって人と人との繋がりが生まれて、どんどん深くなっていく。
それによって人生が豊かになっていく感じがして。ああ、演劇ってこんなにすごい力が
あるんだ、と改めて思いました。
僕ら演劇人は、基本的には自分の欲望のために演技し、演出していると思うんですよ。
でもこんなプロジェクトを任せられると、自分の持つ技術を社会に還元できると
実感しました。すごく、ありがたい事です。
あと、町の人が出演していることもあって、お客さんの反応が暖かかった。
楽しもうと思って見てくれてる。観に来た人も、この作品のキャストの一人になって
欲しいと思ってたんだけど、その通りに出来たと思ってます。」

–東京の演出家が長野に来る、地方都市で作品を創るという行為には、
どういう魅力がありますか?

「やっぱり、新鮮です。東京と長野では、役者の感覚も違うし。
その土地に住む人と一緒に作品を作ると、人や土地と深く交わることができる。
単純に集客の面を考えても魅力的です。東京で芝居を作って、地方公演をするというのでは、
ただ見せる側と見る側という一方的な関係しか出来ません。
「柔らかいモザイクの街」の方法で作れば、直接いろんなものを残せる気がします。
あと、長野の人は素直だと思います。それもいいですね。」

–今回の作品を作ることによって、この街に何か残すことは出来たでしょうか。

「作品を一緒に作ると、そこにはネットワークが残るんです。
芝居が終わって僕が帰った後も、地元の参加者同士のネットワークが残って、
そこから新しい何かが生まれるきっかけになるかもしれない。
この作品が、もっと先に続いていけばいいな、と思います。

–長野での演劇で、これからの課題があれば教えて下さい。

「この『蔵春閣』の空間が、もう少し使いやすくなっていったら嬉しいな、と思います。
例えば照明がもっと使いやすくなれば。出演者だけじゃなくて、観に来て下さった人を
大切にして繋いでいきたい、という思いもあります。」

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2009年12月初旬、一般公募した出演者を対象としたオーディションが行われた。
演技の上手い俳優を審査するといった

緊張感はなく、オーディションというより演劇体験

ワークショップに近い雰囲気だった。



・長野のメンバーと創り続ける。


–西村さんは二〇〇九年二月にも、長野市で市民オーディションによる
演劇を創られています。「海よりも長い夜」作:平田オリザ
そちらに出演していた人で、「モザイクの街」にも続けて出演している人も
何人かおられますよね。

「今回の出演者全体の半分弱…7〜8人が前作に続いての出演です」

–それらの役者さんを再び演出されて、去年との違いを感じましたか?

「二年連続でやってみて、やはり役者の成長を感じます。例えば前回よりも、
僕が言いたいことが早く伝わるようになった。
こうして、お互いの信頼関係を築いていけたら嬉しいです。

–東京の演出家が長野で作品を創り続けるというのは、とても難しい事だと思います。
市民参加の演劇だから、内容はほどほどにして、知り合いに義理で見てもらう。
…というようなスタイルだと、やる方も見る方もつまらなくなってしまう。
創る喜びを感じて、観に来たお客さんを納得させる作品を創るためには、
継続する事が大事だと思いました。

「そうですね。この二年で出来た長野の演劇ネットワークを、
もっと長く続けていきたいです。
新しい人にもっと入ってもらって、核となるメンバーと一緒にやっていけたら、
さらに高度で面白いものが出来ると思います。

–人や物が集中する東京でなく、地方都市で演劇をすることの意味をお聞かせ下さい。

「高齢化が進み、地方都市が都市として機能しづらくなる時代が間近に来ています。
乗り切るためには、人と人が手を取り合うコミュニティが不可欠でしょう。
演劇をやることによって、自然と地域の中にコミュニティが生まれる。
そういう形で地域貢献、域活性化ができると思います。演劇には様々なスタッフが必要だし、
お互いをよく知らないと、一緒に作品を作り上げることは出来ないんです。
そういう意味で、演劇が作るコミュニティは強いですから。
これからの日本は、今まで以上に物質的には豊かになれないと思うんです。
政治家までがコンクリートから人へ、って言うくらいですし(笑)。

…そしたら、豊かな生活を送るには、もう芸術しかないでしょう、と思います。
芸術を中心にして、様々なネットワークを作る。つながることが出来たら、
孤独に陥らなくてすむ。人は孤独に死んでいくってのが一番辛いと思います。
今回のように集まって、アートの制作に関わることで、お互いを支え合うような
ネットワークが出来ると、それは地域社会にとって大きなプラスになるはずです。」

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ストーリーの終盤に、主人公たちが駆け落ちした町の町長役として、善光寺門前の西之門町
の区長(当時)・北澤良洋さんが出演。また、冒頭には城山公民館の小林館長も出演し、
観客の拍手喝采を浴びた。二日間の公演で、集客数は470人。


※写真・インタビュー:清水隆史
2010年2月6日、公演初日に城山公民館・旧『蔵春閣』ホールにて