今回も130年前の『善光寺繁昌記』から「演劇」の項の
続きを紹介します。
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このごろ善光寺境内に新劇場がオープンした。建物は巨大で、
舞台・桟敷・欄干などは東京の猿若座をまねている。
(中略)
浜路(注:名優)が昨年善光寺にやってきて公演し、
大評判になった。今年の3月からは「善光(よしみつ)一代記」
という新作を上演した。善光寺のお膝元というこの地だからこそ、
こうした演目を上演できるのである。その斬新な趣向がたいそう
評判になり、口コミで広まった。田舎の人は早く炊事を済ませて
出かけ、町の女の子は夜になると化粧をして急いで駆けつける。
大挙して続々と押しかけるので、両側の桟敷の手すりはたわんで
折れてしまいそうだ。舞台前の桟敷は、人の頭が鱗のように
ひしめきあう。これによってもまた、その繁昌ぶりを見ることが
できる。
(中略)
観客は涙を流す。太鼓がトントンと鳴り、幕が下りる。
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善光寺を開いたと伝えられている、本田善光(よしみつ)
親子の物語です。
善光寺をモチーフにした劇を地元の人たちが楽しんで
いたのです。(小林)
文明開化が感じられる約130年前の長野の人々(『善光寺繁昌記』挿絵より)